大判例

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大阪高等裁判所 平成8年(ネ)1559号 判決

大阪府東大阪市旭町一三番一三号

控訴人

野村裕晧

同府寝屋川市点野四丁目一一番七号

控訴人

大裕 株式会社

右代表者代表取締役

野村裕晧

右控訴人ら訴訟代理人弁護士

中嶋邦明

平尾宏紀

井上楸子

右輔佐人弁理士

鎌田文二

東尾正博

鳥居和久

兵庫県明石市大久保町江井島一〇一三番地の一

被控訴人

日工 株式会社

右代表者代表取締役

芝幸雄

右訴訟代理人弁護士

岡村泰郎

河合徹子

濱岡峰也

大阪市中央区高麗橋四丁目一番一号

被控訴人

東洋建設株式会社

右代表者代表取締役

大西章

右訴訟代理人弁護士

藤木久

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の申立て

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人日工株式会社は、原判決別紙イ号説明書及びイ号図面記載の鋼製足場板のケレン装置(以下「イ号物件」という。)を製造販売してはならない。

3  被控訴人日工株式会社は、その占有に係るイ号物件を廃棄せよ。

4  被控訴人日工株式会社は、控訴人大裕株式会社に対し、金二二五〇万円及びこれに対する平成六年一二月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  被控訴人東洋建設株式会社は、イ号物件を使用してはならい。

6  被控訴人東洋建設株式会社は、その占有に係るイ号物件を廃棄せよ。

7  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。

8  仮執行宣言

二  被控訴人ら

主文同旨

第二  事案の概要及び当事者双方の主張

原判決の事実及び理由のうちの「第二 事案の概要」、「第三 争点に関する当事者の主張」にそれぞれ記載されているとおりであるから、これらを引用する(但し、原判決三三頁一〇行目の「右のとおりが」を「右のとおり」、同四二頁一二行目の「技術的範囲にしないことは」を「技術的範囲に属しないことは」とそれぞれ訂正する。)。

第三  当審における争点及びこれに関する当事者の主張

(以下、略語は原判決の例による。)

イ号物件における浮上装置は本件考案にいう「コンベヤ」に該当するか否か。

一  控訴人らの主張

イ号物件における浮上装置は「コンベヤ」に該当する。したがって、イ号物件の移載機は、浮上装置の支持アーム上すなわち「コンベヤ」上の(コンベヤに支えられてその上に[on the conveyor]位置する)鋼製足場板を挟持して持ち上げ、これをテーブルリフタまで移載するものであって、イ号物件は本件考案の構成要件Eを具備しているということができる。

以下、詳述する。

1  本件考案における「コンベヤ」の意味

(一) 本件考案は、鋼製足場板をケレン装置から自動的に取り出しこれをテーブルリフタ上に積み重ねるための構成として、コンベヤと移載機を採用したものであって、そこにいう「コンベヤ」とは、ケレン装置からケレン作業後の足場板を自動的に取り出し、かつ右取り出した足場板を移載機が挟持すべき位置まで運搬するための構成を意味するものである。

(二) 一般に、「コンベヤ」とは運搬装置を意味し、運搬の方向は、水平方向に限らず、斜め方向や鉛直方向でも差し支えないし、コンベヤ自体としても、ローラコンベヤのほか、ベルトコンベヤ、バケットコンベヤその他種々のものが存在することは周知のとおりである。

また、「技術用語による特許分類索引」(特許庁編)によれば、「往復運動コンベヤ」なるものが存在し(甲第四号証の一)、これは「周期的な運動、例・往復運動、をするキャリヤ(荷運搬機)または押送部材であって、それらの運動の帰路中に荷と係合しないものからなるコンベヤ」のうち、「キャリヤまたは押送部材が往路も帰路も同一運動路をとるもの」と解説されている(甲第四号証の二)。

すなわち、往復運動をするキャリアであって、それらの運動の帰路中に荷と係合しないものからなる運搬装置が「コンベヤ」に含まれることは当業者の通常の認識ということができる。

(三) 更に進んで、本件考案に係る実用新案登録請求の範囲の記載を見てみるに、「鋼製足場板を支持して搬送するコンベヤの搬送途中に、通過する鋼製足場板に打撃を加えて付着物を剥がすケレン機を配置し、上記コンベヤの取出側端部の側方に鋼製足場板を積み重ねるテーブルリフタを設け、上記コンベヤとテーブルリフタにわたる上部の位置に、コンベヤ上の鋼製足場板を挟持して持上げこれをテーブルリフタ上に積重ねる移載機を配置した鋼製足場板のケレン装置。」とあるだけであり、コンベヤによる運搬の方向を限定しあるいはコンベヤの種類を特に限定する記載はない。また、本件明細書の実施例の欄には、「なお、コンベヤ9はベルトコンベヤやローラコンベヤを用いて構成してもよい。」と記載し、コンベヤの種類として種々のものを使用できるとしている(公報4欄3行ないし5行)。

右は、本件考案が、ケレン作業後の足場板の自動取出し及びその自動積重ねのための構成として、コンベヤと移載機を採用したものであることからも当然のことである。すなわち、本件考案において「コンベヤ」とは、ケレン装置からケレン作業後の足場板を自動的に取り出し、かつ右取り出した足場板を移載機が挟持すべき位置まで運搬するための構成を意味するものであり、そうである以上、コンベヤによる運搬の方向やコンベヤの種類を限定する必要がないからである。

(四) よって、本件考案の構成要件Eにいう「コンベヤ」とは、ケレン作業後の鋼製足場板をケレン機から自動的に取り出し、これを移載機が挟持すべき位置まで運搬する構成と解釈しなければならない。

2  イ号物件における足場板の浮上装置

イ号物件の浮上装置は、ローラコンベヤ上の足場板を移載機の直下近くまで持ち上げる構成であり、ケレン作業後の足場板を移載機が挟持すべき位置まで運搬する構成の一部にほかならない。

すなわち、イ号物件の浮上装置は、前記「技術用語による特許分類索引」にいう「往復運転コンベヤ」に該当しあるいは甲第四号証の二にいう「周期的な運動、例・往復運動、をするキャリヤ(荷運搬機)または押送部材であって、それらの運動の帰路中に荷と係合しないものからなるコンベヤ」のうち、「キャリヤまたは押送部材が往路も帰路も同一運動路をとるもの」に該当することは明らかである。

以上のとおり、当業者の通常の認識によって解釈すれば、イ号物件の浮上装置は「コンベヤ」に該当するものである。

3  よって、イ号物件における移載機は、浮上装置の支持アーム上すなわち「コンベヤ」上の(コンベヤに支えられてその上に[on the conveyor]位置する)鋼製足場板を挟持して持ち上げ、これをテーブルリフタまで移載するということになる。

二  被控訴人らの主張

1  本件考案中のコンベヤにはイ号物件の浮上装置まで含めるべきではない。本件考案の明細書の詳細な説明には、浮上装置で足場板をコンベヤの上方(above)に持ち上げるという記載はない。

2  「コンベヤ」とは、本来、無限帯状の運搬具をいう。本件の浮上装置は、支持アームを上下動させるという、完結した一動作によって荷を搬送し、その完結した動作を反復することによって荷を継続的に搬送するだけであるから、「荷を連続的に搬送する」コンベヤとは決定的に異なる。

3  当業者を基準にして明細書を理解すべきことは当然としても、その解釈に当たっては、コンベヤという用語のみを摘出しそれだけを単独で理解するりではなく、明細書の文脈の中でその用語をどのように理解するかということが重要である。

このような観点から言えば、本件考案における「コンベヤ」は、控訴人らがいうような広範な意味ではなく、ケレン後の足場板を水平移動させる運搬体として予定されていることは、考案の詳細な説明の記載からも、実施例の記載からも明らかであるから、本件考案の「コンベヤ」にイ号物件の浮上装置や支持アームを含めることはできない。

第四  当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり当審における争点に関する判断を付加するほか、原判決の事実及び理由のうちの「第四 争点に対する判断」に示されているとおりであるから、これを引用する。

【本件考案にいう「コンベヤ」の意義(本件考案の構成要件E該当性の有無)】

本件明細書の記載からは、本件考案にいう「コンベヤ」にイ号物件の浮上装置は含まれないものと解すべきである。理由は次のとおりである。

一  本件明細書の考案の詳細な説明の欄の記載によれば、本件考案は、近年、「鋼製足場板を長手方向に移動させ、通過する足場板に打撃輪を衝突させることにより、コンクリートを剥離するケレン機が・・提案されてい(た)」(公報1欄22行~25行)が、「上記のようなケレン機は、打撃作業を自動的に行うだけであり、鋼製足場板の供給や取出しおよびケレン後の積重ね等の作業はいまだ手作業によつて行なつているため、能率や作業コストの面で満足できるものではな(かった)」(公報1欄27行~2欄3行)ことに鑑み、「鋼製足場板のケレン作業、取出しから積重ねまで(を)自動的に行えるケレン装置を提供すること」(公報2欄5行~7行)を目的とし、「上記の問題点を解決するため、・・・鋼製足場板を支持して搬送するコンベヤの搬送途中に、通過する足場板に打撃を与えて付着物を除去するケレン機を配置し、搬送コンベヤの取出側端部の側方に足場板を積重ねて載置するテーブルリフタを設け、上記コンベヤとテーブルリフタにわたる上部に、コンベヤ上の足場板を挟持して持上げ、これをテーブルリフタ上に移送して積重ねる移載機を配置したものである。」(公報2欄9行~17行)。

本件考案に関する前記本件明細書の記載からみると、本件考案にいうケレン機は、鋼製足場板を長手方向に移動させ、通過する足場板に打撃を与えるものであり、このケレン機は鋼製足場板を支持して搬送するコンベヤの搬送途中に配置されるものであるから、本件考案にいうコンベヤとは、足場板を長手方向に搬送するものと解するのが、その文理と内容に即した解釈であると考えられる。そして、本件考案は、搬送コンベヤの取出側端部の側方に足場板を積み重ねて載置するテーブルリフタを設け、上記コンベヤとテーブルリフタにわたる上部に、コンベヤ上の足場板を挟持して持ち上げ、これをテーブルリフタ上に搬送して積み重ねる移載機を配置したものであり、本件考案において、足場板が長手方向に搬送されるのは搬送コンベヤの取出側端部まで、言い換えればテーブルリフタの側方に相当する位置までであるから、本件考案においては、そこまで足場板を連続的に搬送する搬送装置をもってコンベヤと称しているものと解するのが、その構成に即した解釈であると考えられる。

また、前記本件明細書の記載に照らすと、本件考案は、前記手作業によることの問題解決の手段として、コンベヤとテーブルリフタの上部の位置に、コンベアー上の足場板を持ち上げ、これをテーブルリフタ上に積み重ねる移載機を配置するという構成(本件考案の構成要件E)を採用したものであり、この点に本件考案の特徴があるものと認められるところ、足場板の取り出し、積み重ねに関しては、本件明細書には、後記記載があるのみで、その他実施例図を含めてみても、足場板の持上げが移載機による挟持の前に行われることを示す記載や図示がないのはもちろん、その示唆もない。本件考案においては、足場板を持ち上げながら昇降動するものとしては移載機が予定されているのみで、これとは別に足場板を昇降動させる装置(例えば、リフト、コンベヤ等)は予定されていないものと認められる。

以上のようにみてくると、仮に、移載機とは別に足場板を昇降動させる装置を設けた場合、それがその装置自体としては、控訴人らのいう「技術用語による特許分類索引」上の「コンベヤ」の中に含まれるものであるとしても、これを本件考案にいうコンベヤといえないことは明かであるといわねばならない。

〈1〉〔作用〕「……足場板はコンベヤで前方のローラコンベヤに送り込まれ、定位置に停止すると直上に待機する移載機が降下して足場板を挟持し、この足場板を持上げて側方のテーブルリフタ上に移載し、順次足場板が載重ねられるたびにテーブルリフタは足場板の厚み分だけ間歇的に降下する。」(公報2欄23行~28行)

〈2〉〔実施例〕「……コンベヤ9の途中に配置したケレン機10と、コンベヤ9の取出側端部に延長して設けたローラコンベヤ11と、このローラコンベヤの側方に配置したテーブルリフタ12と、ローラコンベヤ11とテーブルリフタ12間の上部に設けた移載機13と、テーブルリフタ12の側方に配置した取出用のフリーローラ傾斜台14とで構成されている。……」(公報3欄17行~24行)

〈3〉〔実施例〕「ローラコンベヤ11上の足場板Aをテーブルリフタ12上に積重ねる移載機13は、第9図と第10図に示すように、ローラコンベヤ11上からテーブルリフタ12の直上にわたって一対のガイドレール50を配置し、両ガイドレール50間の下部にこのレール50に沿って移動する走行台51を吊下げ、走行台51の下部に足場板Aを両側から挟む挟持具52がシリンダ53で上下動するように取付けられている。」(公報5欄33行~41行)

〈4〉〔実施例〕「……このローラコンベヤ11上に待機する移載機13の挟持具52が検出信号によって下降し、足場板Aを両側から挟持する。次に移載機13は、挟持具52が上昇して足場板Aを持上げ、シリンダ57が伸長作動することにより、足場板Aを第10図二点鎖線の如くテーブルリフタ12の直上に移送し、この位置で昇降動と挟持解放を行なってテーブルリフタ12上に足場板Aを載せ、再びローラコンベヤ11の直上位置に戻って次の移送に待機する。」(公報6欄33行~42行)

二  そこで、イ号物件についてみるに、イ号物件の浮上装置は、ローラコンベヤの押圧板の反対側の側方に位置し、支持アームとこれを直上に浮上させる起動部分からなるが、支持アームは通常ローラコンベヤの下に沈下しており、ケレンされた足場板が同コンベヤの前方端に達し、押圧板で位置固定されると、コンベヤの下から浮上して、コンベヤ上の足場板を移載機の直下近くまで持ち上げるというものである(原判決別紙イ号説明書一〈6〉)。そして、支持アーム上に待機する移載機(挟持具)は、降下し、支持アーム上の足場板の短辺の中点付近を長手方向から挟持することになる(原判決別紙イ号説明書一〈7〉)。

三  以上にみてきたところに照らし、本件考案とイ号物件を対比してみるに、例え、イ号物件の浮上装置が、それ自体としては控訴人らが指摘する「往復運動コンベヤ」といえるものであるとしても、それは足場板を長手方向に搬送するものではないのはもちろん、本件考案において予定された装置でもないから、それが本件考案にいうコンベヤに当たらないことは明かであるといわねばならない。そして、本件考案にいうコンベヤ上の鋼製足場板を挟持して持ち上げる移載機とは、移載機がコンベヤ上の(コンベヤに支えられてその上に[on the conveyor]位置する)鋼製足場板を挟持し、しかる後にこれを持ち上げることを意味するものであることは、原判決に示されているとおりであるところ、イ号物件の移載機は、本件考案にいうコンベヤ上の(コンベヤに支えられてその上に[on the conveyor]位置する)鋼製足場板を挟持するものではないから、本件考案の構成要件Eにいう移載機には当たらず、右構成要件を充足するとはいえない。

第五  以上の次第であって、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属するものとは認められず、控訴人らの本訴請求は理由がない。よって、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条一項本文を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上野茂 裁判官 高山浩平 裁判官 長井浩一)

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